ニッポン縦断
8月2日(水)晴れ、気温34℃
関門海峡を渡る! もうすぐゴール
広島(広島県)→福岡(福岡県)→伊万里(佐賀県)→佐賀(佐賀県)
朝8時、今日もいい天気だ。広島駅前のコンビニで食料を買い込み、山陽自動車道に乗って九州を目指す。明日は今回の旅のゴール=鹿児島県・佐多岬への到着予定日。そのために今日はできるだけ距離を稼いでおきたいところだが、アクセルを踏み込んでスピードアップ! という気持ちにはならない自分がいる。各地で譲って頂いた手作りの燃料、その想いを知れば誰でも自然と大事に使いたいという気になるのではないだろうか。
それより走っていて気になりだしたのは、虫の衝突などによるフロントガラスの汚れだ。いつもなら給油のたびにスタンドの店員が拭いてくれたり、備え付けの道具を借りて掃除するのだが、今回はそれをするチャンスがないのだ。走るほどに汚れていくフロントガラスを見つつ、そんな些細なことにもバイオディーゼルで走る面白さを感じてしまう。
本日の最初の訪問先となったのは下関市の東に位置する城下町・長府。幕末の志士、高杉晋作が「ただいまより長州男児の肝っ玉をお見せし申す」と叫んで挙兵した功山寺にほぼ近い「長府商店街」だ。全国の商店街で初めてバイオディーゼルの販売を開始したという数年前の記事を頼りに訪ねてみると、のどかな街並の中に「環境維新(!)長府エコショップ」と書かれた事務所があり、入口には様々なエコ商品が陳列されている。お目当てのバイオディーゼルも販売しているという。(やったー!)ほどなくして下関商店街連合会・長府自治連合会の会長をしておられる緒方聖雄氏(68才)が来られ、いろいろとお話しさせていただくことができた。
山口県と下関市による「エコ商店街形成支援事業」の一環として「長府商店街」が廃食油の回収とBDFの販売を開始したのは2003年。「環境にいい取り組みを通して商店街と住民の交流を活性化させたい」というのが、最初に手をあげた緒方さんの想いだった。廃油を持ち寄った方には1Lにつき5ポイントの商店街ポイント又は現金5円と交換されるというシステムは今ではしっかり定着しているようで、一月あたり1000Lほどの廃食油が集まるそうだ。実際、取材している間にも母親のお使いでお子さんが廃食油を持ち込んでくるのを見かけた。ガソリンスタンドをエコステーションにするという滋賀の油藤さんの発想と、ある意味近いかもしれない。ただし残念なのが、思ったほどBDFの販売が伸びないということ。緒方さんの話では「まだまだクルマが壊れるという印象が強い」のが邪魔をしているらしい。
いろいろ説明をいただいた後、事務所裏のプラントを見学し、緒方さんの手でBDFを給油してもらう。精製したBDFは常時3、4名の方が自家用車の燃料として購入されるほか、市の公用車などに利用されているのが現状のようだ。販売量が少ないので、会長自ら本業の製麺業と掛け持ちで精製・給油に孤軍奮闘の様子。BDFの実力を試す旅を続けている僕らとしても思わず応援したくなる。長府の皆さん、BDFをもっと試してみて下さいね!
長府のご家庭の天ぷら油製のBDFで満タンになったランクルを駆り、関門橋を渡っていよいよ九州上陸。まずは福岡でアドベンチャーレースで知り合った友人を訪ねた。そこに西日本新聞社の方も取材に来られ、ひょんな話からBDFとウーロン茶の色を比べてみたら、まるでそっくり。まちがって飲まないよう皆さん決してペットボトルにはいれないように!?
さて、その後は明日のゴールに向けて熊本あたりまで移動するはずだったが、佐賀県にとてもユニークな環境保全活動をされている方がいるという話を聞きつけ、どうしても会いにいきたくなってしまった。NPO法人「伊万里はちがめプラン」だ。伊万里市の料飲店・旅館組合、そして地域の方々が連携して「自分たちが出した生ごみを資源に変える」プロジェクトを展開し、その一環として廃食油のBDF化にも取り組んでいるという。つてをたどって代表の福田さんにご連絡すると、いきなりのお願いにも関わらずお会いして頂けることになった。
福岡から佐賀へ一般道をひた走り、伊万里市内からカーナビにも表示されない山道をのぼっていくと、まるでビニール栽培のような大きな施設が現れた。生ゴミを堆肥にかえる実験プラントだ。回収した生ゴミを種菌と混合し、微生物の働きで約100日かけて醗酵(はっこう)・分解・熟成させていく。初期醗酵ヤードから時間をたどってみていくと、生ゴミ特有のにおいが消え、森の腐葉土のようなきれいな堆肥に変わっていくのだ。
代表の福田さんの第一印象は、骨太でちょっと恐そうな九州男。出てくる言葉もストレートで時に辛辣なのだが、プラントを説明しはじめると、なんともうれしそうな顔になる。「ここの微生物は24時間無給でよく働いてくれます。」実は笑顔がかわいいユーモリストなのだ。言葉がきついのも、このプロジェクトを高い次元で成功させようという強い意志からでていることがわかる。もともと伊萬里亭というレストランのオーナーで、生ゴミの回収は本業の負担になるばかりなのだが、伊万里の町をもっと魅力的な町にしていく布石として生ゴミに着目し、様々なアイディアを実現してきた。生ゴミを堆肥にかえ、有機野菜を育て、食卓へと循環させる“環の里”計画も、そんな想いを共有する有志の集まりで支えられ、まさに堆肥のように時間をかけ、静かに醗酵してきたのだと思う。
明日行政へのプレゼンがあるといいながら、観光や教育へと彼の壮大なプランの話は尽きること無く、アッという間に時が流れた。あたりは暗くなり始め、お仕事の邪魔をこれ以上しないように「はちがめプラン」を後にした。伊万里ののどかな野山に夕陽が赤く落ちようとしていた。あまりの美しさにクルマを停め、しばし夕陽を撮影してしまう。夕陽に色を変える田圃と稲穂の輝き。そんな風景は心も体も癒してくれるものだ。この旅も明日で終わりだと思うとなんだか寂しいような気がする。
この後、パリダカールラリーに出場している友人の三橋淳がたまたま佐賀の天才整体師、鳥屋氏のところに来ていたので、一緒に夕食を食べることにする。鳥屋氏のお薦め中華料理屋のシェフはまるでF1の様な速さで飛びっきりうまい料理を作るアーティストだった。佐多岬までかなりの距離を残してしまったが、久しぶりにゆっくりと食事をして深夜まで楽しい時を過ごす。